8月も終わりに近づいたある日、赤也は新しい思い出の時を作ろうと恋人の待つ家へと向かった。 赤也の恋人は寮生であるのでなかなか会うことが出来ない。 だけど今は夏休みなので校規で家に戻されている。 なので、自由に会いにいける………はずなのであるが… 「ハァ…」 恋人の家の前なのになぜか気分は晴れない。 まるで頑固親父に”一人娘を嫁にくれ!”と言いに行く…より鬱な気分だ。 ここは恋人(?)である裕太の家であるだけでなく、むかつく奴リスト5人の内に確実に入っている不二周助の家でもある。 ここで一人悶々としていても仕方がないと思った赤也は”家の前”と短いメールを送った。 チャイムでも鳴らして不二周助でも出ようもんなら確実に追い返される。経験上裕太の方が周助より先に出てくることはない。だったら呼び出せばいいのだ。 2.3分して普通の家より格段に大きい不二家のドアが開いて裕太が出てきた。 「お、切原、遅かったじゃねぇか。」 「ま、な。」 「!!」 鬱だった気分を一変で吹き飛ばしてくれるような裕太の笑顔に魅了されて思わずでこにキスをしちまう…きっかり5秒後に殴られたけど。 「と、とりあえずあがれよ。」 「おっ邪魔しま〜す」 小突かれた(真田副部長の比じゃないし)所をさすりながらさりげなく靴置き場を見る。裕太のより小さい男物のシューズが目に入る……激しいことは出来ねぇな… 「へぇ、面白そうじゃねぇか。」 小奇麗に片付けられた裕太の部屋。床に漫画やゲームが散乱している俺の部屋とは大違い。 借りてきたのは裕太の好きそうなアクション物…ちょっち恋愛要素あり。 『恋人の部屋だったらエッチぃの持ってってそのまま流されてIN』 なんて悪友は言ってたけど、こいつにはちょっと無理だろな…っておもう。 まぁいつかは俺色の染め上げるけどね。 「うわっ、すげ…」 さすが制作費ウン億円の新作。俺でさえ興奮してきちまう。隣の恋人の普段見ることの出来ないような表情も見れたし満足。DVDのレンタル料金分は軽く取れたな。 DVDより恋人に見惚れていると、軽くノックのおと…スッゲーヤな予感… 「裕太、何騒いでいるのさ?……あぁ、切原もいるんだ」 「どうも。」 「二人でDVD見ていたんだ…じゃあ、切原にはこれをあげるよ。」 そういうと不二周助は裕太の前にはピンク色の液体の入ったコップ、俺の前には不二周助の腹の色のように黒そうな炭酸ものを置いていった。ちょっと怪訝そうな顔でその物体を見ていると、 「それ僕が結構気に入っているブラックジンジャーコーラ。すっごく刺激的な飲み物だから、切原にも合うとおもうよ。それとも裕太と同じスイートストロベリーミルクにする?悪いけど今家にその二種類しかないんだけど」 全く悪びれなく不二周助がいう。裕太のピンク色の液体を見るとますます気分が悪くなる。甘い恋人は好きだけど甘すぎる食物は好きではない。それに飲まなければいいんだし、あんなに甘い香りのするものが目の前にあるよりこの方がましである。 「いぇ、いいです。」 「そう、じゃあ、僕は失礼するね。」 拍子抜けするほどあっさりと引き下がる不二周助。ますます黒い液体に対する警戒心が深くなっていく。ど、毒でも入ってるのかよ? 不二周助が去って少ししてすぐにまたDVDの虜になる俺と裕太。さすが超大作。 思わず興奮して二人して叫んでしまう。おかげで喉もカラカラだ。無意識に思わず目の前のコップを手にし、中身を飲んでしまう。気付いたのは飲み込んだ後、食道に感じる炭酸特有の刺激…………………… あれ?なんともない。てっきりそのまま死ぬかと思ったけど、今のところ体に不調なし。むしろ適度に水分と刺激を吸収して気分がいい。 俺は不二周助に対する不信をすっかり払拭してDVDを見始めた… … …… ……… ………… …………… 「……」 愛しい恋人の声で目を覚ます。そうか、俺達あのまま…甘い痺れが俺に心地よくまとわり着く…… 「切原〜、もうDVDおわったぞ〜」 「!?」 一瞬で覚醒する。え?俺、あのまま寝ちまったのか!? 「あぁ、良かったなぁ、あの二人結局思いが通じて。」 ………そこって、劇場内でもカップルがキスしてたって有名なとこじゃん。……… 目を輝かせて感動している裕太を思わずジト目で見てしまう。 「んだよ、そんなに眠いなら帰った方がいいんじゃねぇか?」 「眠いことは眠いんだけどね…じゃ、さ、泊めてよ」 「は?何言ってんだよ。親父さんとか心配すんぜ?」 「家そういうの平気だって。」 DVD中予定通りにいかなかっしなぁ、続きは夜に…なんて思ってると。 「切原〜、ごめんね〜ちょっと僕達でかけなきゃ行けない用が出来たから早く帰ってくれるかなぁ?」 貼り付けただけの満面の笑みで訪れた不二周助に生ごみを扱うようにとっとと家を追い出されてしまった。 そして振り向きざま奴は 「僕に勝つのはまだまだまだまだまだまだま---------------------------だ早いよ」 と言い放った。 |