「ねぇ。もうじき誕生日なんだって?」
「は?」
「こういう時ってさ、何していいかよくわかんないんだよね…
うーん、じゃ、なんか好きなものおごってあげるよ。あ、でもあんまり高いものはだめだけどね。」
「はぁ…じゃぁそこの喫茶店で軽くパフェでも…って、なに言ってんだよ俺。」
「ん。パフェね。それぐらいならいいよ。じゃ、行こうか」
「あ、おい!!」
そいつは強引に俺の腕をつかんで近くにあった喫茶店に入っていった。飄々とした態度とは裏腹に結構力が強い。
「お待たせいたしました。トロピカルイチゴパフェとレアチーズケーキセットでございます。」
いまいち状況がつかめなくてポケ〜としていた俺の前にパフェが現れ、意識が戻ってきた。
こいつ、どっかで見たことだけはある気がするんだよな…。
それになんでこいつは面識のない俺の誕生日なんて知ってて、こんなことまでしてくれるんだ?
もしかして、また、忘れていたガキの頃からの知り合い?
俺この若さで若年性痴呆症かよ……。
自分の置かれている状況を裕太が必死に理解しようと悩んでいると
「ねぇ。何でそんなに百面相してるの?それ、食べたかったんじゃないの?」
「あ、いぇ。いただきます……あの、どこかでお会いしたことありましたか?」
悩むのが性にあわないと思った裕太は意を決して聞いてみた。
「実際に会うのは初めてだよ。」
「そ、そうですよね。どこかで見たことはある気はしたんですけど…」
よし。初対面だ。まだまだ痴呆症じゃない。よかった、俺。
「君もテニスやってるんでしょ。だったらどこかで選手プロフィール見たんじゃない?」
「え?」
「緑山中2年。季楽靖幸」
「え!?」
こいつが季楽…確か洗練されたきれいなテニススタイルをもつレベルの高い選手で、そんで結構すごかった選手の息子だったよな。誕生日は…っと、いつだっけ?
観月さんなら知ってるのかな?『それくらい常識ですよ。んふっ』…とか言うのかな?
「え〜と、季楽は何で…」
「オキラクちゃん」
「は?」
「オキラクちゃんでいいよ。みんなそう呼んでるし。」
「なんかそれ、呼びづらいんだけど。」
「そうかな?」
「あ-もぅ、いいや。あのさ、オキラクちゃんは結構他のプレイヤーの誕生日とかも調べて知ってるわけ?」
「?」
「あのさ、俺データ収集とか苦手でさ、やっぱだめなのかな?こういうこととかも知らなきゃ?」
「別にいいんじゃない?テニスに役に立たないデータなんて持ってなくったって。」
「そうだよな。なんか、俺だけかなこういうこと知らないなんて…なんて思っちゃってさ。」
「そんなことないと思うよ。俺だってそういうの興味ないからほとんど知らないし。」
そうだよな。テニスに関係ないことまで相手のこと知ってる必要ないしな。季楽だってその程度のことって済ましてるし…!!なんで俺のは知ってるんだよ?
「あのさぁ、季楽、どうして俺の…」
「オキラクちゃんだってば。」
「……オキラクちゃんはさ、どーして俺の誕生日は知ってんの?こういうの興味ないんだろ?」
「あぁ、こういうのが回ってきてさ…」
そういうと季楽は俺に携帯の画面を見せた。そこには…
「…。何だよ、これ?」
「知らないよ。俺のほうこそ聞きたいよ。」
「兄貴かよ…」
「なんかチェーンメールっぽいよね。結構広がってるみたいだし…俺のところには越前からきたけど。」
「え?越前でもそんなことするのかよ?」
「しょうがないんじゃない。だって不二さん近くにいるんでしょ。不二さんの恐ろしさ、よく知ってるんじゃない。」
「は…ははは…はは…」
「おーい。裕太君しっかりしなよ。」
「………。俺、どうしたらいいんだ?」
「ま、君の気持ちはわかるよ。俺の誕生日の時だってパパが全校集会の朝礼台で
『今日は靖幸の誕生日なんだぞ!いや〜めでたいなぁ〜』
なんて言い始めるんだからさ…本当にやんなっちゃったよ。」
「季楽。おまえも苦労しているんだな。」
「…はぁ。多分あっちは悪気のない愛情表現のつもりなんだろうけどさ、重すぎるんだよね。」
「兄貴の場合は悪気どころか何か企んでそうだけど。」
「お互い苦労するけど、がんばろうね。」
「あぁ。そうだな、季…オキラクちゃん」
ここに新たな奇妙で美しい友情が芽生えた
裕太誕生日Ver季楽靖幸+裕太です。
オキラクちゃんも越前も裕太も大きな壁が頭上にあります。
テニスの実力も上、しかもはた迷惑な愛情を注いでくれる方々です。
がんばって下克上していただきたいものです。