「少し外の空気を吸ってくる。」

「幸村…?…解った。余り遠出はするなよ」

「真田。俺を誰だと思ってる?」

「……」

 気分が悪い。青学と比嘉との試合の後、強烈に襲ってきた吐き気。少し外の清々しい空気を吸うために俺は会場を後にした。5分も散策すると、比較的落ち着いてきた。

 ふと耳にした少年の声。声変わり前後の耳障りの良い響き。



「あぁ、兄貴。とりあえず比嘉戦、一勝おめでとう。」



 何の邪気の欠片もない笑顔でそう言う…電話なので言われた本人には見えていない…余りに勿体無いな。



「今日はだめだ。まぁ、近いうち家には帰るからさ…」
『……………………』
「じゃぁな、兄貴。」



 他愛なく終わる兄弟の会話か…見ていて微笑ましいな。



「へぇ、お前、青学の誰かの弟なん?」



 また甦る気持ちの悪さ…何だ…?



「比嘉…」

「君が誰であろうと良いのですが、青学の関係者らしいので少し話がしたいと思いましてね…」

「……こっちも、サエ…木さんの事で言いたいことがある。」

「サエキ?あぁ、あの、負け犬のことか?」



 茶色の少年の目がきつくなる。
 おそらくサエキという奴も少年にとっては大切な人…
 より一層気持ちが悪くなる…
 おそらく話し合いなんかじゃ終わらない。

 俺はジャージに入っていた立海特製の…少し重めなボールをリーダー格の奴に投げつけていた。



「…っ…誰だ!!」
「兄貴!?」


 寸分の狂いもなく球はそいつの額に大きくめり込んだ。俺が投げたんだ。当然だ。
 でも、兄貴……!?


「立海…」

 俺の着ているジャージを見てそいつの取り巻きが呟く。

「見ていて気分のいいものではなくてな。俺もその話し合いに参加させてもらっても良いか?」

 あえて凄んで言ってやる。

「ま、まぁ。俺たちは一応は試合は終わった身。だが、立海はまだまだこれからじゃないのか?」

 少し上ずった声。いい気味だ。だが俺の気分はその程度では納まらない。

「別に…ただこの幸村を相手にするんだ。それ相当のことはさせてもらうぞ。」

「く………おい、監督のところに戻るぞ!」

 すごすごと退散していく。
 もう少し悪役らしく振舞ってほしいものだ。
 それなりに俺の気分もスッキリはしたけどね。



「あ、あの…」

比嘉の奴等を目で追っていると、茶色の少年が話し掛けてきた。

「俺、聖ルドルフの、不…裕太といいます。助けて頂いてありがとうございました。」

 …礼儀正しい子だ、赤也にでも見習わせてやりたい。
 あいつはあいつなりに可愛いんだけどね。
 苗字を言いかけて止めるなんて、よっぽど触れられたくないのか?
 まぁ立海と青学は一応は敵同士なんだし、余計なイザコザを避けたいのかな?  

「あぁ、大丈夫だったかい?裕太君。災難だったね。」

 さっきの奴等にとは全く違うお得意の笑顔で返してやる。

「あ、はぃ。…あ〜幸村さんこそこんなことに巻き込んでしまって、申し訳ありません…」
「気にしなくて良いさ。俺が勝手にしたことなんだしね。それにしてもよく俺の事知ってたね。」
「な…何言ってるんですか!あの立海の幸村さんですよ!!テニスやってて知らない奴いるわけないじゃないですか!!」


真っ赤になって精一杯言う彼。男に言う台詞じゃないんだろうけど、可愛いと思ってしまう。


「裕太君はこれからどうするの?」
「えっと…本当はもう少し試合を見ていきたかったんですけど…」

 そう言うと彼の顔が一瞬曇る。おそらく比嘉の奴等の事を思い出していたんだろう。

「じゃぁ、俺たちと一緒に見ないか?」
「良いんですか!!…じゃねぇや。え、え〜と…ご迷惑ですし…」

 慌てて言い直す彼がおかしくておかしくて。思わず俺は肩をならしてしまう。
 不信そうな顔してる彼が目に入ったので俺は誤魔化すように自分のジャージを彼に掛けて…

「その格好じゃ目立つからね。一応カモフラージュ。」

 本当に場凌ぎに出た言葉と行動。
 こんなんじゃ誰も誤魔化せない。
 まぁ裕太を連れてった時のうちのメンバーの反応を見るのも面白いんだけどね。
 真田あたりが何を言うのか楽しみだな…俺には敵わないけどね。

 立海のジャージが羽織れて興奮気味な裕太を連れ、俺は上機嫌で立海のベンチへ向かった。


 パソコンの内部整理中に発掘してきたものを手直し…というか悪化^^;
 最強〜以来、幸村からはひしひしと黒いものを感じ、28巻で確定ですね♪〜
 最近のWJでも漢らしさを醸し出してますしね
 黒といえば白。白といえば裕太君vv
 黒頂上決戦は兄VS観月から兄Vs幸村に移行しつつあります。
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