チチチチチ……
 柔らかな日差しとかわいい小鳥の声で目がさめた。
 なんだか今日はとてもいいことがありそうな気がする

 階段を下りてリビングに行ったけど、そこには誰もいなくて…
 あぁ、そうだ。今日は父さんが久しぶりに家に帰ってくるんで、母さんと姉さんが迎えに行ったんだっけな。
 6時前には帰ってくるとか言ってたっけ。

 僕はサラダとトーストだけの簡単な朝食を済ませて、足早に学校に向かった。
 今日も朝錬がある。急がないと遅刻してグランドを走らなきゃいけない。



  「おはよう、不二。今日も早いね」

 誰よりも早く来てみんなが快適に部活に取り組めるように世話をしてくれる大石。
 僕たちが気持ちよくテニスをできるのは君のおかげだよ…と、感謝の気持ちをこめ大石におはようのキスをする



  「今日の練習相手は不二か。よろしく頼むよ。」

 タカさんが人のよさそうな笑みを浮かべて右手を差し伸べてきた。
 気配り上手でやさしいタカさん。彼とだと楽しい気分でプレーができる。
 タカさんの手を取りよろしくの意味でその甲にキスをする。



  「ふぁ〜あ」

 凄く眠そうなあくびが聞こえる。越前だね。
 どうも朝に弱いらしい。仕方がないな…
 目がさめるようにと願いを込めて越前のまぶたにキスをする。
 由美子姉さんに教わったおまじないだから効果は抜群のはずだ。



  「んだと?もういっぺん言って見やがれ!マムシ」
  「あ”ぁ、何度でも言ってやるよ。邪魔すんじゃねぇ!」

 いつものことだけど、海堂と桃が喧嘩をしているようだ。
 どうしてこう仲が悪いのだろう。せっかく二年生レギュラー同士なんだから、もう少し仲良くしてもいいと思うんだけど…
 一瞬もう一人、本来ならここにいたかもしれない少年の幻が見えた。彼なら二人と仲良くできるだろうか?それともいっしょに喧嘩し始めてるだろうか?……
 ありえもしない幻想を打ち砕くために頭を振って僕は二人に近づいていった。
 喧嘩しちゃダメだよ。そう言い諭すように二人のおでこに軽くキス。



  「やぁ、不二。ちょっといいかな?」

 小休憩するために木陰で水を飲んでいる僕に乾が近づいてきた。
 新しい乾汁ができたらしい。僕に効果を試して欲しいそうだ。
 僕は ありがとう と言ってそれを一気に飲み干した。
 ちょっとすっぱかったけど、なんか気分がすっきりしたみたいだ。
 いつも効果の高いジュースをありがとう…感謝の意をこめ乾のフレームに軽くキス。



  「越前?なんだその球は?やる気がないのか?」

 手塚の怒声が聞こえる。最近越前は少しスランプ気味のようだ。
 それをわかっていてあえて越前に強く求める…
 それだけ手塚の期待が大きいのだろう。
 でもね、手塚。怒るだけじゃダメなんだよ。
 深く刻まれた手塚の眉間の皺にやさしくキス。



 遠くでチャイムの音が聞こえる。
 校庭を見ると続々生徒が登校してくる。
 朝錬は終了。



  「あ〜あ。そういえば今日は数学の小テストがあるんだよなー。ずーっとテニスしてられたらいいのにー!」

 僕の横で頬を膨らませて不満を言う英二。
 そんな風船みたいな頬に軽くキス。
 今日も一日クラスでよろしくね。の意味をこめて

 なんだかんだで今日も授業が終了。
 今日は東京都教育連盟のお偉いさん達が会議にくるらしく部活は中止。
 途中で大石と英二とわかれ、今僕は一人で帰途に着く。

 一年前には一人で帰ることなんてなかったのに…
 いつも一緒に帰っていた子のことを思い出す。
 僕がHRで遅いときは彼が待っていてくれたし、彼が遅いときは僕が待ってたんだよね…
 どうも今日は感傷的らしい。
いつもより風景が霞んで見える。
 小高い坂を越えると、そこには本来いないはずの彼がいた。

  「裕太!」

 僕が彼の名前を呼び終わるのと、僕が彼に抱きついたのと、どちらが早かっただろうか?

 僕はその存在を確かめるようによりいっそう力をこめて抱きしめる。
 太陽の香りをさせる僕と同じ色素の毛、程よく筋肉の付いた抱きしめ心地の良いからだ。


  「あ…兄貴…苦しい…」

 その声に僕はやっと落ち着きを取り戻し、腕の力を少し緩め

  「裕太。お帰り。」

 と普通に家族が帰ってきたときのように微笑んだ。

 「何でここにいるの?」とか、「今日は家にいてくれるんだね。」なんて言わない。
 裕太がここにいて、不二家に帰ってくるのは当たり前なんだから。



  「家に入ろうと思ったら、鍵開いてなくて。」

 照れ隠しなのか、裕太が少しぶっきらぼうに言う。

 「今日は父さんが帰ってくるから、母さん達が迎えに行っちゃって家にいないからね。」
 「あ、そうか。父さんも今日帰ってくるんだったよな。」
 「うん、父さんは今日、久々に帰ってくるんだよ。」
 「やっぱ兄貴の誕生日だからかなぁ?」


 僕の誕生日だから?普通の日じゃないから、裕太がここにいるの?
 日常に裕太がいればいいと思う僕と非日常だから一緒にいるという裕太。
 陽が差し始めていた僕の心は一瞬で曇り空になった。



 「なぁ。兄貴。そろそろ家に入らねぇ?」
 「うん。そうだね。」
 落胆を隠すようにいつものように笑顔の仮面をつける。
 自分でもいやになるくらいこういうことになれている。

  「…」
  「……」
  「………」
  「…………」

 奇妙な無言の空気が流れる僕達の家のリビング。

  「あぁ〜、もぅ。言いたいことがあるんならとっとと言え!」
 重厚な沈黙の雰囲気に耐えられなくなった裕太が叫んだ。
 言いたいことは、いっぱいあるかもしれない。けど……

 僕はゆっくり後ろから裕太を抱きしめた。
 「……」
 裕太は何も言わずにじっとしていた。
 それだけでも僕の心に何かが満たされていくような感じがしてきた。
 今まで誰にキスしても得られなかった暖かい何かが…

 「しばらくこうさせて…」
 「…こんなんでいいのかよ。」
 「うん。僕には一番のプレゼント。」
 「母さん達が帰ってくるまでだぞ」
 「うん。仕方がないよね。」

 そのまま僕は心地良い微睡みに落ちていった…

  「ただいま〜。周助、裕太?帰ってきているの?」
  「あらあら、まぁまぁ。二人ともお疲れのようね。」
  「子供のときみたいだな。」
  「何言ってんのよお父さん。まだまだ二人とも中学生なんだし、子供なのよ。」
  「せっかくだから記念に写真でも撮っておくか。」
  「そうですね。かわいい二人の天使ですからね。」

 「おはよう、不二。今日も早いね」
 「あぁ。おはよう大石。今日もご苦労様。」
 「……」

 「今日の練習相手も不二か。よろしく頼むよ。」
 「タカさん。よろしく。お手柔らかにね…」
 「……」

 「ふぁ〜あ」
 「越前。今日も眠そうだね。手塚が見てるみたいだけど…」
 「!!」

 「んだと?もういっぺん言って見やがれ!マムシ」
 「あ”ぁ、何度でも言ってやるよ。邪魔すんじゃねぇ!」
 「二人とも相変わらずだね。乾、何かいい手はないかい?」
 「そうだな…、二人とも、とりあえずこれを飲んでみてくれないか?」
 「!! ま、マムシラリーするぞ!」
 「お、おぅ。手加減しねぇからな。」
 「ふふ。さすが乾だね。」
 「……」

 「あ〜あ。もう授業開始か…。ずーっとテニスしてられたらいいのにー!」
 「大石はどっちも真面目に頑張る奴が好きみたいだよ。手塚に負けられないでしょ。」
 「大石が?…うぅ〜、菊丸英二!授業真面目に頑張りまーす!」

 「不二の奴、変わったな。」
 「何か吹っ切れた見たいだね。」
 「恋人でもできたりして♪」
 「……調べてみよう。」

 僕はもう、キスをしなくても大丈夫。
 落ち込んだり、淋しくなったらすぐに元気になれるお守りを姉さん達からもらったんだ。
 最近撮った僕と僕の大好きなことのツーショットの写真。


 不二周助誕生日祝い…なってますでしょうか???
 白不二書いたのも、キス表現書いたのも、周裕書いたのも、この作品が初めてです。(*^^*)ゞ
 白不二総受→周裕→黒不二降臨、シリアス→ギャグになっちゃいましたね
 さすが書いている人がいいかげんな、sagaです♪
 最後になりましたが、不二君、誕生日おめでとうございます
 たくさんの幸せが貴方に訪れますように。

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